糖鎖なるほど研究所

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ようこそいらっしゃいませ。「糖鎖なるほど研究所」は、なにかと難しい単語が飛び交う糖鎖についての基本知識を、なるべくわかりやすく解説することを目的としたWebサイトです。

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どんな働きをするの?

糖鎖は、文字通り無数の糖が鎖状に繋がったもの。おもに細胞の表面に存在して、いろいろな働きを担います。細かく分けるとキリがありませんが、どの場合も共通して言えるのは、糖鎖は細胞同士がコミュニケーションを取るのに欠かせないものだ、ということ。今回は、そんな糖鎖の働きについて、深掘りして解説していきたいと思います。

「糖鎖」が細胞の顔だということはなんとなく理解できましたが、僕たちの体の中で一体どんな働きをするのでしょうか。

いろいろな働きをしているので、なかなか説明しづらいのですが、強いて言えば細胞の表情のような役割を果たしています。

細胞の表情、ですか。嬉しい、悲しい、とか、そういうことでしょうか。ワンちゃんで言えば尻尾、みたいな。

そうですね。ただ現在、細胞に感情があることは確認されていません。実際は、その細胞が年を取っていないかとか、傷ついていないかとか、そういう情報を発信する役目を果たしています。

「(TT)」とか、「(^^)」みたいなものが細胞にくっついているイメージですかね。

ものすごくざっくり言うとそうですね。その細胞の顔を見て、それ以外の細胞は「あいつ、元気がないぞ」「どこか不調があるんじゃないか!」というようなことを判断するわけです。

それ以外にも、たとえば「こいつ、細菌の顔してる!」「臨戦態勢を整えろ!」といったようなケースもあります。ただそれも、糖鎖が担うはたらきの1つに過ぎませんが。

えっ、細菌にも糖鎖があるんですか!そうか。言われてみれば、細胞って身体の中にあるものだけじゃないですもんね。糖鎖って、奥が深いなぁ。もっと詳しく教えてください!

身体の中で大活躍!糖鎖の働きとは

糖鎖は、文字通り細胞から生えている糖の鎖のことを言います。まだすべてが解明されたわけではありませんが、この糖の鎖には、さまざまな役割があるとされているんです。

代表的なものを以下にピックアップしてみますね。

<糖鎖の働き早見表>
細胞同士のコミュニケーション 人の身体には、平均して60兆もの細胞があります。それらの細胞が行うコミュニケーションは、すべて糖鎖を通して行われます。
細胞の質の管理 糖鎖には、細胞同士の情報をやり取りする働きがあります。こうした情報交換により、身体に必要な細胞は保護・修復し、不要な細胞は攻撃・分解するといった活動を管理しています。
免疫系のコントロール 人の身体の免疫は、細かいレベルでは糖鎖がコントロールしています。体内に侵入したウィルスや細菌の糖鎖を、体内の糖鎖が検知して免疫細胞を活性化する、というような仕組みです。
血液型の決定 血液型は、赤血球という細胞の表面にある糖鎖の、先端の1つがどの糖かによって決められています。

ざっと見ただけでも、糖鎖が身体の中でどれほど幅広い役割を果たしているかがわかりますね。それぞれについて、いくつかの参考資料を参照しながらさらに細かく見ていきましょう。

細胞同士のコミュニケーション

糖鎖は細胞膜に埋まったタンパク質や脂質に結合し、細胞表面を被っています。「細胞の顔」とも呼ばれ、体内の情報伝達を調整しながら、増殖や分化といった細胞活動に影響を与えています。

引用元:日本発の技術で糖鎖解析の世界スタンダードを目指す 株式会社GPバイオサイエンス

糖鎖は、細胞の表面(より正確には、細胞の表面にあるタンパク質)から生えていて、これがどういった糖の組み合わせで作られているかによって、役割が違ってきます。

しかしどの糖鎖も、細胞同士のコミュニケーションに使われる、という点は同じです。人の身体を正常に動かすためには、細胞同士の情報交換が欠かせません。たとえば「この細胞はあの場所とあの場所でしか役に立たない。みんなで運んでいこう」とか、「この細胞は敵だから分解してOK」といった判断材料として使われるのです。

いわば細胞の目や耳、声の役割を果たしているわけですね。全身の細胞が糖鎖の情報によって活動していますから、糖鎖が正しく機能しないと大問題。

人間も、突然目や耳が聞こえなくなったら、まともに生活が送れなくなってしまいますよね。それが集団ならなおさらです。

もちろん、突然糖鎖が働かなくなる、ということはありませんが、調子が狂うことは考えられます。人間で言うと、「眩暈がする」「耳鳴りが酷い」というような状態でしょうか。

こういった事態を避けるためにも、糖鎖の働きを意識して、その状態を乱さないような生活習慣を心がけることが大切です。

細胞内のタンパク質の品質の管理

近年,細胞内におけるタンパク質のフォールディング・輸送・分解などのプロセスに,糖鎖が重要な役割を演じていることが明らかとなってきた 2), 3).こうした糖タンパク質の運命の決定は,細胞内に存在するさまざまなレクチンの糖鎖認識を通じて規定されている.

引用元:糖鎖認識を介した糖タンパク質の細胞内運命の決定機構

糖鎖は細胞同士のコミュニケーションを担っています。しかし情報をやり取りするのは、外側だけではありません。

糖鎖は細胞膜にあるタンパク質から生えていますが、タンパク質も糖鎖も、大元は細胞内で作られます。細胞膜で合成されるケースもありますので、すべてが細胞内で作られるわけではないのですが、ともかく細胞内にも糖鎖は存在するのです。

近年、そうした糖鎖が、細胞内の働きにも影響を与えていることがわかってきました。

うまく合成されなかったり、古くなってしまったタンパク質につく糖鎖には、そのことを示すタグのような役割があるとのこと。このタグ(糖鎖)の情報を元に、細胞内でタンパク質をどう扱うかが決定されるとのことです。

免疫系のコントロール

TLRの他に、補体やレクチンと言われる糖鎖結合タンパク質なども異物を認識して免疫反応を引き起こしたり、異物をオプソニン化します。オプソニンとは、異物に目印を付けて「この印のついた物は貪食細胞が食べてもよい」という合図です。

引用元:抗菌アロマテラピーへの招待/著者:井上重治、安部茂

病気の原因と言えば、ウィルスや細菌をイメージしますよね。ウィルスは、その生物の細胞の中に入り込んで、そこから増殖していくもの。細菌は、それ自体が細胞で、やはり体内で増殖して健康に悪い影響を与えます。

じつは、これらのウィルスや細菌にも糖鎖があります。ウィルスや細菌も、糖鎖を使って体内の細胞を調べ、特定の糖鎖を持つ細胞を利用して体内に入ってくるのです。怖いですね。

一方、身体の中にある細胞も黙ってはいません。細胞も糖鎖から得る情報で身体に異物が入ってきたことを理解し、すぐに免疫細胞を活性化します。その時に働く白血球は、糖鎖の違いでウィルスや細菌を見分け、攻撃します。

このように、糖鎖を利用した情報の伝達と細胞の区別によって、免疫系は機能しているわけです。

反対に、糖鎖に異常が起きていると、細菌やウィルスのいいようにやられてしまいます。

たとえば毎年猛威を振るうインフルエンザは、糖鎖を溶かすことによって自分の優位を保とうとします。インフルエンザの薬として知られるタミフルは、糖鎖を守ることでウィルスの悪影響を食い止めるためのものです。

血液型の決定

ABO式血液型は、赤血球の膜の表面に結合している糖鎖により決まります。A型の人はアセチルグルコサミン転移酵素を持っているので、糖鎖の先端にアセチルグルコサミンが結合しており、B型の人はガラクトース転移酵素を持っているので糖鎖の先端にガラクトースが結合しています。

引用元:図解入門よくわかる最新血液型の基本としくみ: 血液型のメカニズムを図解で学ぶ!/著者:松尾友香

赤血球にある糖鎖に限定されるのですが、末端にどの糖が来るかによって、人の血液型が決定されます。上記で引用させていただいた通り、末端にあるのがアセチルグルコサミンであればA型、ガラクトースであればB型。両方であればAB型。どちらでもなければO型を指します。

ちなみに、O型の場合は末端にあるのはフコースという糖。A型、B型、AB型は、フコースの次にアセチルグルコサミンかガラクトースがくっ付いている、というイメージです。

余談ですが、O型ってアルファベットのオーじゃなくて0のオーなのだそうです。アセチルグルコサミンやガラクトースを転移酵素というのですが、その転移酵素がないことが由来とのこと。おもしろいですね。

さておき、末端にある糖が1つ違うだけで、人の身体はそれを異物と判断します。A型の人にB型の血液を輸血すると、それは異物と判断されて攻撃されてしまうんです。

破壊された赤血球は血管の中で固まって、最悪の場合は致命的な症状を引き起こすこととなります。糖鎖がどれほど厳密に人の身体をコントロールしているか、この事実だけでもおわかりいただけるかと思います。

まとめ

すっごいですねぇ~!糖鎖って身体の全部をコントロールしていると言ってもいいんじゃないですか。

物質ですから、それ自体に意思があるわけではありません。でも、スガくんが言いたいこともわかりますよ。それくらい、糖鎖の影響力というのは大きいんです。

とくに、赤血球の末端にある1つの糖が血液型を決定しているというのは驚きました!コンピュータみたいに精密なんですね。

ますます糖鎖に興味が出てきました。今回は糖鎖の働きについて説明してもらいましたが、糖鎖にも種類があるんですよね。次は糖鎖の種類について詳しく知りたいです!