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関節トラブルでお悩みの方

糖鎖とさまざまな疾患の関係について、基本的な知識を解説しています。今回は、自身の免疫系が関節部分の骨や軟骨を壊してしまう、関節リウマチにフォーカス。関節リウマチの原因は現在も不明とされていますが、患部では糖鎖異常の抗体が増えるなど、糖鎖とは浅からぬ関係があるんですよ。

知人のお母さんが関節リウマチになってしまって、悩んでいました。けっこう症状が進んでしまっていて、痛がっている母を見るのが辛いって……。

通院するのも大変ですからね。しかし、技術が進歩したおかげで、昔と比べて治療の選択肢は広がっています。関節の破壊や変形を止めるのも、不可能ではありません。

関節リウマチにも糖鎖が関係しているんですか?

糖鎖は細胞の一部位ですから、どんな病気や疾患にも少なからず関係しているんですよ。それでは、関節リウマチと糖鎖の関係について詳しく見ていきましょう。

そもそも関節リウマチとは

関節リウマチとは、体に備わる免疫系が、手足の関節にある軟骨や骨の細胞を攻撃してしまう病気です。放置していて治ることはなく、進行すると関節が変形してしまいます。

初期症状として、朝起きたときに手のこわばりが起こることが多く、症状が進むと関節部の腫れや激痛を招きます。一般に、3~40代の女性が掛かりやすいとされていますが、性別問わずどの年代でも起こるリスクがあり、油断はできません。

ほかのどの病気もそうですが、治療を始めるのが早ければ早いほど、それ以上の進行を食い止めることができるとされています。

根本的な原因はまだ不明

どうやら免疫系が関節を攻撃しているらしい、ということはわかっていますが、なぜ自分自身を攻撃しているのかということはわかっていません。

遺伝するものでも感染するものでもなく、きっかけは不明のままです。ケガや何らかのストレス、ホルモンバランスの乱れなど諸説ありますが、どれも決め手に欠ける、というのが現状です。

関節リウマチ(RA)は代表的な慢性炎症性疾患であるが病因は未だ明らかになっておらず,そのため根本的な治療法は確立されていない.

引用元:臨床リウマチ医のための基礎講座 関節リウマチと糖鎖異常

おもな治療は薬によるもの

リハビリや手術といった選択肢もありますが、現在の関節リウマチの治療は主に薬を用いて行われます。

使われる薬の種類は以下の通りです。

消炎鎮痛剤 進行を止めることはできませんが、関節部の炎症による腫れや痛みを軽くすることができます。
抗リウマチ薬 第一の選択肢となる治療薬です。免疫異常を改善し、リウマチの進行を遅らせます。
ステロイド 腫れや痛みを軽減する強力な力を持った薬剤です。ただ副作用があるため、使用には注意する必要があります。
生物学的製剤 生物が合成したタンパク質を利用して作られた薬剤です。アレルギーや感染症に注意する必要はありますが、高い効果が期待できます。

関節リウマチと糖鎖の関係

関節リウマチになると、患部では糖鎖異常の細胞が増えます。一方で、その糖鎖異常を利用したり、修復したりすることで症状の改善を試みる治療方法も開発されつつあります。

患部では糖鎖異常の細胞が増える

人の血液の中には、ウィルスや細菌に感染した細胞と結合する抗体があります。

関節リウマチになると、この抗体のうちの1つに異常が見られることがわかっています。具体的には、ガラクトースが糖鎖から欠損した、免疫グロブリンGという抗体の割合が増えてしまうのです。

慢性関節リウマチ患者における血清IgGのガラクトース欠損という構造異常は、IgGを産生するB細胞のβ1,4ガラクトース転移酵素の異常に起因すると考えられている。実際、健常人とリウマチ患者のB細胞でβ1,4ガラクトース転移酵素活性を測定してみると、30-70%減少していることが分った。

引用元:糖質科学のことば / Glycopathology-A04

糖鎖を利用したリウマチ治療も確立されつつある

2011年11月、京都大学の研究グループが、関節リウマチの患部にLOX-1というタンパク質を世界で初めて発見しました。しかも、このタンパク質の信号を阻害することで、軟骨の破壊を防ぐことができたとのことです。

このタンパク質には糖鎖がついており、これをターゲットにした、リウマチのさらに効果的な治療方法が確立されることが期待されています。

リウマチの関節炎の主体である滑膜にレクチン様酸化LDL受容体1(LOX-1)という蛋白が発現していることを世界で初めて発見し、このシグナルをブロックすることで滑膜細胞から分泌されている軟骨を破壊する酵素の産生が著明に低下することを発見しました。

引用元:LOX-1シグナルが関節リウマチの病態に大きく関わることを発見-関節リウマチの診断、治療につながる大きな一歩-

また、2016年4月には、名古屋大学の研究チームが、自己抗体の糖鎖の末端にシアル酸を付けてリウマチのマウスに投与したところ、炎症が大幅に緩和したという研究成果を発表しました。

抗体の糖鎖構造を変化させたことで、炎症を食い止められる可能性が出てきたわけです。

糖鎖って、本当になんにでも関係しているんですね。

糖鎖異常が先か、疾患が先かはわかりませんが、いずれにせよ何か疾患が起きた場合、糖鎖の構造は変わります。その構造を目印に異常を見つけたり、異常を元に戻すためのアプローチを追求するわけですね。

なるほど。とにもかくにも、糖鎖を正常に保てるようにがんばらないといけないわけですね。

そうですね。それがなかなか難しいんですが、まずは糖鎖についての知識を身に付けて、できることから始めてみてください。